昨日、私はピザポテトを拾った。
あるいは買ったのかもしれないが、私にはよくわからない。
これ程美しく、食欲をそそられるものを、私は他に知らない。
あのような日々の中で、ピザポテトに出会ったことは何かの啓示だったような気がする。
神を信じない私がそう思うのは理屈に合わないが、今思い返してみても、やはりそんな気がしてならない。
いつもより、仕事が早く終わった夜。
ジムで汗を流した私は、帰宅前にドン・キホーテに寄った。
ブルーノ・マーズが脳内で「ドンキイクヨ?」と囁いている。
ジムから自宅の中間にドン・キホーテがあり、ジム後にドン・キホーテに寄る誘惑を振り切ることは難しい。
ドストエフスキーが『賭博者』で、そこに可能性があるのに避けて通ることは難しいと言っていたが、同様にジム後のドン・キホーテとブルーノ・マーズの誘惑を避けて通ることは困難だ。
明日は仕事が休みで、ジムで運動もした。
私は、空白を埋める何かを求めていたし、彼女に出会ったのは必然であったとも言える。
店頭で98円の特売で売られていた黒いパッケージを見つけた時、吸い寄せられるに手に取って、買い物かごに放り込んだ。
鼓動が速くなっていく。
こめかみが痛み、視界が歪み始めていた。
パッケージには、「罪の味」と書かれていた。
これは、違う。
私は半ば声に出しながら思考する。
自分が食べるとは限らないのだから・・・。
ただ、安いから買ってみているだけだ。
誰かに言い訳をするようにそそくさと会計を済ませる。
家に帰り、夕食を食べ、いつものようにビールを飲む。
酩酊が罪悪感を麻痺させていく。
私は、戸棚の中のピザポテトを意識する。
「・・・だめになってしまいたい。胃もたれやダイエットや健全さから遠く離れて」
「あなた・・・。とても危うい目をしてますね・・・。」
妻が私を見て言った。
「とても混乱をしている。かわいそうに。解き放ってあげましょうか?」
彼女は私の前にピザポテトを置いた。
「共に食べましょう。」
夜は深まり、月は満ちていた。
月の光が強い。
私の決意を揺さぶるほどに強い。
私の苦しみも懊悩も、この袋を開ければ全て消えるとでも?
ピザポテトは、パンドラの匣のように食卓の上で鈍い光を放ち続ける。
この袋を開ければ、あなたはこれまでの人生の全てを失うかもしれない・・・。
ピザポテトの傍らにそんな手記が置かれていた。
「意味が分からない」
頭が混乱していく。
私は、悪を為す。
夜中に高カロリーなスナック菓子を食べるという悪を。
煩悶と挫折の果てに、私は世界を超えていく。
それを口に含んだ瞬間、私の意識は何かに届くかもしれない。
神がこのような食物を地上にお造りになったのだとしたら・・・。
なんと残酷な仕打ちをなさるのだろうか?
目の前のピザポテトが、私にこう問いかける。
「覚悟は・・・、ある?」
私は、パンドラの匣を開ける。
覚悟もないままに。
ピザ臭が嗅覚を蠱惑的に刺激する。
抗えない。
その入ってはいいけない領域へ伸びた指。
その指の先端の皮膚に走る、違和感が消えうせる快楽を・・・。
私は、彼女を貪り続けた。

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