1、作品の概要
『ケイコ目を澄ませて』は、2022年12月16日公開の日本の映画。
小笠原恵子の自伝『負けないで』が原作。
上映時間は99分。
第46回日本アカデミー賞・最優秀主演女優賞を受賞。
聴覚障害を持ったケイコがプロボクサーとして葛藤を抱えながら戦い続ける姿を描いた。
2023年5月19日よりアマゾンプライムビデオで配信開始。
2、あらすじ
生まれつき両耳が聞こえない聴覚障害をもつケイコ(岸井ゆきの)。
彼女はホテルの仕事の傍ら、プロボクサーとしてリングに上がりデビューから2勝していた。
素直で練習熱心なケイコはジムの会長(三浦友和)やトレーナーにも可愛がられていた。
3戦目で辛くも勝利した彼女だったが、顔は腫れ上がり深いダメージを負って、母親にも早くボクシングをやめるように諭される。
一度ボクシングから離れるべきか悩む彼女は、会長への手紙を渡せずにいた。
そんな折り、荒川ボクシングジムを揺るがす大事件が起きる。
3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ
なんかツィッターで観てよかったって言っている方が多く、気になっていました。
ストーリーもなんか僕好みな感じで・・・。
そのうちレンタルで観ようかなと思っていたら、アマゾンプライムビデオ様が独占配信するというニュースが!!
いや、マジ神やで!!
5月は『NOPE』『別れる決心』『犬王』『ケイコ目を澄ませて』とめっちゃ豊作でした!!
アマゾン様、最強最高!!
4、感想(ネタバレあり)
派手さはないのですが、東京の下町の風景と昔ながらのボクシングジム、路地裏、隅田川の土手沿いの風景と電車なんかの日常の光景がとても素朴で心に沁みました。
誰もいないリングを音もなく写しているシーンがあったのですが、差し込んだ光の中にほこりが舞っていて、とても美しかったです。
あえて音楽をほとんど流さずに無音の場面も多かったのは、聴覚障害であるケイコの世界観を表現するためだったのでしょうか?
音楽がたくさん流れる映画も好きですが、無音の余白もまたいいものだなと思いました。
物語は、ケイコの日常とボクシングに集約されていて、敢えて広げずに掘り下げて描いている感じがしました。
荒川ジムでのトレーニングの日々。
ジムの建物も古くて昭和感満載で味がありますねぇ。
聴覚障害があって全く耳が聴こえないことで度々日常生活でも手話ができない人や、ケイコが聴覚障害があることを知らない人たちと接するときにすれ違いが起きてしまいます。
こういったディスコミュニケーションがケイコの中にフラストレーションとしてあって、それも彼女をボクシングへと向かわせるひとつの理由になっていたのでしょうか?
耳が聞こえないことで、周囲には本来の自分と違ったイメージが伝播していたのかもしれませんが、彼女の心の中にはたくさんの声が溢れていました。
会長が入院し、病室でケイコの日記を会長に朗読する会長の奥さん。
そこには瑞瑞しくも剥き出しのケイコの「声」が溢れていました。
彼女は自らの聴覚障害でどれだけのコミュニケーションを、感情の表出を諦めてきたのでしょうか?
彼女の身体の中には誰にも届かない叫びが溢れていました。
なぜボクシングをするのか?
なぜ戦うのか?
怖いのに、痛いのが嫌いなのに。
ワセリンの匂い、バンテージを巻く瞬間の高揚感、相手に全てをぶつける試合の没入感、日々のトレーニングから感じ取れる自らの成長・・・。
もしかしたら、こんなことがケイコの脳裏にはあったのかなと想像しながら観ていました。
しんどくて嫌なことをする。
ストイックに日々の努力を積み重ねる。
一体何のために?
まさに僕のこのブログもそうかもしれないですし、ジムでのトレーニングもそうだったりするのかもしれません。
でも、自分で決めた好きなことのために嫌なことも飲み込んですすむこと。
それはとても尊いことだと思いますし、なんというか「自分をより自分化していく」ことのように思えることがあります。
あるべき姿といってもいいかもしれませし、ありたい姿と言ってもいいのかもしれません。
ケイコにとって、それがボクシングだったということなのではないでしょうか?
最後の試合でのケイコの咆哮。
あの力限りの叫びには彼女が言葉を超えて訴えたいことが全て詰まっていたように思います。
そして、あの叫びを演技として表現した、岸井ゆきのの魂を込めた演技に脱帽しました。
5、終わりに
エンドロールも音楽はなく、日常の風景が映し出されて終わっていきますが、そこもまたこの映画らしいなと思いました。
派手さはないですが、じわじわと沁みるタイプの映画でした。
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