1、作品の概要
『すずめの戸締り』は、2022年11月11日に公開された新海誠が監督・脚本・原作を務めるアニメーション映画。
上映時間121分。
公開に先駆けて新海誠が書いた小説『すずめの戸締り』が8月に刊行された。
声優は岩戸鈴芽役を原菜乃華、宗像草太役をSixTonesの中村北斗が務めた。
主題歌はRADWIMPS『すずめfeat十明』
2、あらすじ
九州の田舎町に住む17歳の岩戸鈴芽は、ある扉を探している閉じ師の青年・宗像草太と出会い、廃墟に佇む不思議な扉『後ろ戸』を見つける。
『後ろ戸』の中から災いが出て大地震が起こるのをなんとか阻止した2人。
そこに謎の猫・ダイジンが現れて草太を鈴芽が子供の頃に使っていた椅子の姿に変えてしまう。
鈴芽は椅子に変えられた草太と共に、ダイジンを追いかけ各地の災いの扉を閉めてまわる旅に出るが・・・。
3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ
新海誠監督の作品は好きで、『君の名は』と『天気の子』も映画館で観てめっちゃ良かったので『すずめの戸締り』も観に行ってみました。
色んな意見が出るとは思いますが、僕的にはとても面白かったですし、ストーリーや映像も期待以上でした!!
ストーリー展開も早くて2時間あっという間でしたね。
震災をテーマにしている作品だけあって、生きることや、人と人との繋がりについて考えさせられました。
4、感想(ここからネタバレあります!!)
①初のロードムービーで人と人とのつながりを描く
巻き込まれる形で旅に出てしまったすずめでしたが、宮崎→愛媛→神戸→東京→宮城と旅をするうちにたくさんの人と関わります。
愛媛で出会ってすずめを家に泊めてくれたミカ、愛媛から神戸まで車で送ってくれたルミなど、たくさんの人と触れ合って助けられながら旅を続けます。
やっぱり旅って出会いですし、世知辛い時代なのでなかなかこういういい出会いって少なくなったように思いますが、人と人とのつながりを感じさせられるような心温まるシーンでしたね。
エンドロールで、帰り道に環と一緒にルミとミカのところへちゃんと挨拶に行ってるのもほっこりしました。
そしてそれぞれの土地の『後ろ戸』を閉める時にその土地で生きてきた人達の想いを受け止め、願うことで災いの源であるミミズを追いやることができたのは、かつてたくさんの人たちが過ごした想いがその場所にずっと宿っているからなのだと思います。
宮崎では誰も住まなくなった古い温泉街、愛媛では豪雨災害で使われなくなった学校、神戸では打ち捨てられた遊園地。
過疎化や、災害、経済の低迷などが原因でかつて栄えた場所が廃墟となり打ち捨てられてしまう。
日本中にそんな場所がたくさん増えつつあります。
そんな忘れられた廃墟に『後ろ戸』ができて、災いのもとになるミミズが出てくるという設定もなにか象徴的な気がしますね。
東京から宮城に向かうために車を出してくれたのは草太の友人である芹澤で、ぶっきらぼうですが草太を本気で心配している様子が伺えます。
そんな芹澤と草太の友情と、すずめと叔母の環との繋がりも物語のひとつのキーで環はすずめを心配しながらも、姉が死んだあとにすずめを引き取って失ったもののことにもわだかまりがありサダイジンの影響もあり、すずめに想いをぶつけます。
いや、いくら姪とはいえいきなり独身で子供を引き取って育てるのは大変だし、失うことが多いのも当然だと思います。
『すずめの戸締り』では扉を開けて閉める場面も多く見られますが、『後ろ戸』のあちら側が常世=あの世だったように扉はあちら側とこちら側を繋ぐ境界線のような役割も果たしているのだと思います。
家の内と外、「行ってきます」「ただいま」と、「行ってらっしゃい」「おかえりなさい」の言葉。
日常的にも扉のあちら側とこちら側を行き来することはひとつのイニシエーションであり、「行ってきます」の言葉は内の世界から外の世界へと旅立つ時に誰かに投げかける言葉だと思います。
「すずめの戸締り」のキャッチコピーのひとつが「行ってきます」なのもこの言葉を特別なものだと捉えているからなのかもしませんね。
そして、ラストシーンで出会った時と同じように再会した草太にすずめが投げかけた言葉が「おかえりなさい」だったのも、なにか象徴的だったように思いました。
②震災と後ろ戸
『後ろ戸』が開いて中から出てきたミミズが地面に落ちると大地震が起きるという設定で、何度も緊急地震速報のあのざわつくアラート音が鳴り響きます。
日本国民なら誰もが耳にしたことがある、けたたましいあの電子音(^_^;)
日本という国に生きる以上地震を避けることは難しく、ほとんどの地域で大地震の発生の可能性があり、いつ起きるかわからない大地震に誰もが潜在的な恐怖を抱えて日々を生きているのだと思います。
そして、そんな潜在的な地震への恐怖は東日本大震災の記憶に繋がっているのだと思います。
すずめは東日本大震災で母親を亡くしていて、冒頭の常世の風景はすずめがたまたま開けた『後ろ戸』で、生家近くにあった扉で、廃墟になった家の上に船の残骸が乗っている風景は、まさしく津波に襲われたあとの街の風景でした。
サダイジン、ウダイジンと共にそんなとてつもない大災害があった『後ろ戸』から入ってミミズを要石で常世に封印したのは、従来のやり方ではミミズを抑えることが難しくなってきていたとダイジンが考えたからだったのでしょうか?
可愛い猫の姿をしていながら、草太を椅子にする呪いをかけて、各地の後ろ戸に導いて東京では草太が要石になるように仕向けたのはそんな考えがあったから。
最初は気まぐれな悪い猫にしか見えませんでしたが、どうやら最初からダイジンが考えたシナリオで、人の手でミミズを封印するように仕向けたように感じました。
そしてそれをするには草太と要石だけでは難しく、すずめが力をつけて、さらにウダイジンの力を借りて2人と2匹の力でミミズに立ち向かう必要があったのだとしたら、すずめの旅にも大きな意味があったのでしょう。
すずめの苗字が岩戸で、宮崎県が天の岩戸の神話が残っている場所なのも、すずめが持つ不思議な力の由縁なのかもしれませんね。
時代と共に要石の場所が動いていたというのは、その時代によって大きな災いのもととなる場所が変わってきていたからなのかなとも思いました。
③生きたいと強く願うこと
劇中であまり深く触れられていませんが、草太には両親がおらず祖父に育てられて、すずめも母親を亡くして叔母の環に育てられたという少し複雑な家庭で育ったという共通点があります。
そして、その家庭環境の為なのかどうかはわかりませんが、2人とも自分をあまり大事にしないところがあるようです。
友人の芹澤が草太のことを話している時に「自分のことを大事にしない」と憤っていましたし、すずめも緊急時だとは言え東京では車が行き交う道路に飛び出したり、橋の上から飛び降りたりします。
草太の祖父にも「死ぬのなんて怖くない」と言い放つのですが、ただ勇敢なだけではなくて自分の命や人生を大事に考えていない、環や近しい他者からの愛情を受け入れることができていないという風に僕には見えました。
そんな2人が共に旅をして、たくさんの人々と触れて、かけがえのない存在を助けたい誰かを見つけた。
その変化は常世でミミズと戦う時に草太が「わずかな時間の生でありながら1分1日1年でも行き永らえたいと思う人間の生」を的なことを言っていて、すずめも草太も自分の命が大事で大切な存在と一緒にいるために生きたいと強く願うように変わっていったのでした。
すずめが「死ぬのは怖くない」と言ったのは一度常世=あの世に行ったことがあったからなのかもしれませんが、草太というかけがえのない存在ができたことで自分のことを大切にできるように成長したのだと思います。
↑入場者プレゼントの新海誠本です。コンテとかインタビューとかの内容でした。
5、終わりに
ミミズが暴れて地震が起きるって、村上春樹『かえるくん東京を救う』をちょっと思い出しましたね。
かえるくんも出てくるのかと思いましたが、出てきませんでした(笑)
『すずめの戸締り』は神道と災害そこにロードムービー要素と恋愛要素なんかをブレンドした多彩な物語でしたが、よくまとまっていて面白かったです!!
愛媛も舞台になっていますし、聖地巡礼も行ってみたいですね~。
↓ブログランキング参加中!!良かったらクリックよろしくお願いします!!