1、作品の概要
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は2000年に公開されたデンマークの映画。
監督、脚本はラース・フォン・トリアーで、主演は世界的に有名なアイスランドの歌姫・ビョーク。
ビョークも主演女優賞を受賞した。
ミュージカル映画であり、ビョークの歌唱シーンが話題を呼んだ。
映画の音楽もビョークが担当し、サウンドトラック『セルマソングス〜ミュージック・フロム・ダンサー・イン・ザ・ダーク』も好評を博し、ブリット・アワードのサウンドトラック賞を受賞。
レディオヘッドのトム・ヨークとのデュエット曲である『アイヴ・シーン・イット・オール』はアカデミー歌曲賞、ゴールデングローブ賞主題歌賞にノミネートされた。
2、あらすじ
チェコからの移民で、トレーラーハウスで生活している母・セルマ(ビョーク)と息子のジーンは、大家で隣人のビルと妻のリンダにも助けられながら生活していた。
セルマは先天性の目の病気があり、弱視ながらなんとか工場の仕事をこなし、同じ目の病気を患うジーンの手術代を必死に貯める日々を送っていた。
自らも医者から今年中に失明すると宣言されていたセルマ。
そんな苦しい生活の中での希望は大好きなミュージカルで歌って踊ることだった。
同僚のキャシー(カトリーヌ・ドヌーヴ)や、セルマに想いを寄せる男性・ジェフにも助けられながら生活していたセルマだったが、ジーンの手術のために貯めていたお金がなくなってしまう。
直前にビルから借金の申し入れを受けて断っていたことから、セルマは彼にお金を返して欲しいと迫るが・・・。
3、この作品に対する思い入れ
僕がまだ大学生の頃でした。
『ホモジェニック』が大ヒットして、世界中で話題になっていたアイスランドの歌姫ビョークがなんとミュージカル映画で主演を務めるとのニュースが!!
しかも、音楽を担当して主題歌をレディオヘッドのトム・ヨークとデュエットしてるだとぉ!!
もう盆と正月がいっぺんに来たぐらい大騒ぎでしたよ。
レディオヘッドもその頃『KID A』をリリースしてノリに乗っている時期でしたし、劇場に観に行きました。
当時お付き合いしていた彼女と初めて観に行った映画でしたが、あまりの欝展開に映画が終わったあとに彼女が呆然としていたことを思い出しました。
大学生のおデートにはいささか強烈な欝展開ですが、素晴らしい映画であったことは間違いありません(^_^;)
4、感想(ネタバレあり)
22年ぶりに観ましたが、当時よほど印象的だったのかほとんどのシーンを記憶していました。
まず映像がハンドカメラとかで撮ってるのか、ドキュメンタリーっぽい感じで面白いですね。
編集もドキュメンタリーっぽいシーンの区切り方でぶつ切りになっていて、セルマの私生活に入り込んで感情移入してしまうような作りになっています。(たぶん)
後半は怒涛の欝展開ですが、前半部分は目が不自由なセルマにビルやリンダも優しくて、仕事は忙しいけど同僚のリンダも手伝ってくれていてちょっといい話的な感じですすんでいきます。
しかしセルマの視力はどんどん悪化しているように感じられますし、仕事中にミュージカルの空想をしてプレスの機械を壊しかけたり、後半のカタストロフィに向けての予兆が散りばめられているように思います。
でも、そんな辛くて苦しいことも大好きな歌と踊り(空想でも)で乗り越えようとするセルマがとても健気です。
しかし、ミュージカル映画ってわりとハッピーエンドの展開が多い印象ですが、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』は一味違います。
困難に直面しても前向きに強く生きていくセルマ。
ミュージカルはそんな彼女にとって生きる支えであり、息子のジーンは彼女の命より大事な宝物だったのだと思います。
ミュージカルシーンで、工場のプレスの機械や、人々が働いている時に出ている音がそのまま音楽に変化していったり、列車のゴトゴトという音が音楽になったりとセルマのイマジネーションの豊かさには脱帽ですね。
『アイヴ・シーン・イット・オール』が流れ始めるジェフとの掛け合いのシーン。(ちなみにこちらはトムヨークは歌ってません)
セルマの目がもうほとんど見えてないんじゃないかと疑い、心配するジェフに対して「これ以上何を見るの?」とのセルマの返答からのこちらのシーンにめっちゃ鳥肌ぞっわぁぁぁ!!
美しい映像と、ドラマティックなストリングスに魂の迸りのようなビョークの絶唱。
もうたまりません。
後半はまるで坂道を転げ落ちるように悪いほうへ悪いほうへ物事が流れていきます。
それでも例え自分の身がどうなろうとも、大切な息子のジーンは助けたい。
自らと同じ先天性の目の病気で、放っておくといずれは失明してしまう運命。
そのために爪に火を灯すようにして貯めていたセルマの命そのもののようなお金だったのです。
いや、リンダがソファ欲しがってれるとかどうでもいいからビル!!
自分と同じように目の病気になることがわかっていてもどうしても産みたかった子ども。
ジーンの父親のことには触れられていませんが、たとえ目の病気があっても絶対に出会いたかった我が子。
チェコからアメリカに移ってきたのもすべてはジーンの目を治す為でした。
しかし、ジーンのためにお金を貯めていたことを話してしまうとお金が取り上げられてしまうと感じたセルマは父親に送金していたと話し、死刑から逃れるための弁護士の費用を貯めていたお金から出すことも拒否。
セルマにとって自らの命より、ジーンの目の手術をすることのほうが大事だったのですね。
母心とはいえ・・・。
とてもやるせない。
獄中で死刑執行に怯えるセルマの姿はとても生々しかったです。
刑務所は静かすぎて彼女を勇気づけてくれていた音楽もここまでは届きませんでした。
通風孔からかすかに聞こえる教会の賛美歌を聞きながら、「My Favorite Things」を震えながら歌うシーンはもう心が痛すぎて。。
死刑執行前も泣き叫び、歩くこともできないセルマ。
ようやく女性刑務官に励まされて、死刑台までの107歩の足音を音楽にして歩く彼女の姿にどれだけミュージカル音楽が大事なものだったのかを思い知らされました。
絞首刑前に頭から布を被せられて再びパニックになり泣き叫ぶセルマ。
もうやめてー、って声が出そうなほどの欝展開。
大学生のデートに観に行くべき映画ではなかったことは間違いないです。
セルマは震える声で刑が執行されるその瞬間までジーンを想った歌を歌い続けるのでした。
しかし、その声は歌は祈りは無情にも断ち切られ、刑が執行されてしまったのでした・・・。
重い。。
重いラストでしたが、命を賭して息子のジーンに目の手術を受けさせようとしたセルマの想い。
そして、彼女の人生を彩り、支え続けてきたミュージカルと音楽のすばらしさを感じられた作品でした。
5、終わりに
欝映画との評判もあり、明るくハッピーな気持ちで映画を観たい方には全くおすすめできない映画ですが、重い作品も好き方には是非おすすめしたい映画です。
ミュージカルシーンのいくつかは本当に名シーンでしたし、やはりビョークの歌唱力の素晴らしさ、イキイキした表情がとても良かったですよ。
暗闇で踊る。
盲目になって光が射さない世界でのダンスと、絶望的な状況でのダンス。
ダークには
2種類のダークの意味がこめられているように思いました。
セクハラ報道もありちょっとイメージが悪いラース・フォン・トリアー監督ですが、作品自体は興味深いものが多いので、ほかの作品も観てみたいですね。
↓ミュージカル映画の感想を書いた過去記事です
↓ブログランキング参加中!!良かったらクリックよろしくお願いします。