1、作品の概要
2021年に公開されたアメリカ、イギリスの合作映画。
1970年代の日本で起こった公害を原因とする水俣病について描いたドキュメンタリー映画。
ジョニー・デップが主演と、製作を務めた。
日本側からは、美波、真田広之、浅野忠信、加瀬亮、國村隼などが出演。
音楽を坂本龍一が担当した。
2020年12月にベルリン国際映画祭で特別招待作品として上映される。
配給会社の問題や、地元の水俣市から後援を受けられないなど様々な問題に見舞われた。
2、あらすじ
1970年代、かつて名を馳せた写真家ユージン・スミスは、日本のCMの仕事を通じて日本にルーツを持つアイリーンと知り合い、水俣病を撮影して欲しいと依頼される。
ユージンは、雑誌『LIFE』でのかつての盟友・ボブを巻き込み、水俣へ向かうことを決意。
水俣でユージンが見たのは、暴利を貪るために水銀を海へと流し続ける化学会社チッソの横暴と、水銀が原因で水俣病なる奇病に苦しみ続ける地元民たちの姿だった。
度重なる妨害に心が折れそうになるユージンだったが、アイリーンの支えと、地元の人達の温かさ、チッソへの怒りから再び立ち上がる。
真実を世界へと届けるために・・・。
3、この作品に対する思い入れ、観たキッカケ
ネットの記事でこの映画の公開を知り、ずっと気になっていました。
コロナ禍で観に行くことはできませんでしたが、TSUTAYAで新作レンタルになっているのを見つけてソッコーレンタルしました。
ジョニー・デップ主演で、アメリカの映画が日本の公害について描くってどんな内容になるんだろうと、興味もありましたし、史実を脚色している部分もあったのかもしれませんが、人々の怒りとやるせなさが伝わってくる良い作品だったと思います。
4、感想
アメリカの映画で過去に日本で起こった事件を描くというとまず『沈黙』のことが頭に浮かびました。
遠藤周作の名作『沈黙』をスコセッシ監督が描いた名作ですが、『MINAMATA』もジョニー・デップの情念が乗り移ったような名作であったと思います。
色々と公開まで問題はあったようですが、僕の目には強いメッセージが篭められた美しい映画だと映りました。
『沈黙』は虐げられている人々の苦しみ、権力を駆使して棄教させようとする武士たちの横暴さやなどが描かれていて、終始暗いトーンでした。
海の色は暗くて、波は荒々しく、空は常に鉛色の雲が垂れこめていましたが、『MINAMATA』では海は美しくて人々の暮らしも貧しいながらも素朴な喜びに満ちているようなそんな描写であったように思います。
ロケ地が日本とセルビア・モンテネグロだったようなので、美しい海は水俣の海とは違ったのかもしれませんが、美しい海と素朴で優しい人々を、利潤を追求するために損なったチッソという企業の悪辣さが鮮やかに描かれているように感じました。
当時の日本はまだまだ貧しくてつつましい生活を送っている人々が大半でしたし、そんな人達が愛する地元の自然を破壊し、海に流し続けた水銀で多くの人々の健康と命が奪われる。
公害の恐ろしさと企業の身勝手さ、地元民の悲しみと強い怒りがそこには描かれていたと思います。
ユージンは、最初はこの地の人々に対して距離を置いて写真を撮っていましたが、水俣の人達の温かさ、優しさ、障害を持っていても真っ直ぐに生きている人達と支えたいと願う家族のひたむきさに心を動かされて自らもチッソと対峙して、この間違った状況を変えたいと思ったのではないでしょうか?
近しい人を奪われた人達の怒りはとぐろを巻いて燃え盛り、やがては大企業のチッソをも倒すことになります。
もちろんそこには身を呈して写真を撮り続けたユージンの活躍があったからなのでしょう。
ほんの数十年前の日本では、このような非人道的な行為がまかり通っていて、まだまだ発展途上国では経済的発展を遂げるために人権を無視したような事件が続いているように思います。
世界が悲劇を繰り返さないために、この映画が光となってくれることを切に願います。
5、終わりに
「高くて硬い壁と、壁にぶつかって割れてしまう卵があるときには、私は常に卵の側に立つ」
村上春樹のエルサレム授賞式典でのスピーチですが、壁はシステム(国家、資本主義社会)で、卵は民衆を表しているのだったかと思います。
壁と卵の問題は、世界のいたるところで古今東西顕在化している問題で、『MINAMATA』でも暴利を貪り警察権力とも癒着して人々を虐げるチッソ(壁)と、水俣病に苦しみ続けていた地元民(卵)の図式が繰り広げられていました。
奇しくも、暴帝プーチンが率いるロシア軍がウクライナを攻撃して世界にまた新しい「壁と卵」の悲劇が生まれています。
こんなことを許してはいけないし、僕達はか細くても声を上げ続けなければいけないのだと思います。
ジョニー・デップは、村上春樹は、この問題に対してどう思っているのでしょうか?
暴力と独裁者による横暴を許してはいけないと思いますし、戦争には反対です。
いつも踏みにじられるのは硬い壁ではなく、卵のほうなのですから。