ヒロの本棚

本、映画、音楽、写真などについて書きます!!

【映画】『生きちゃった』~自分の気持ちを余すことなく、愛する人に伝えることができたら。~

1、作品の概要

 

『船を編む』などの石田裕也監督作品。

2020年公開。

主演・仲野太賀、共演に大島優子

香港と中国が出資した企画で、「至上の愛」をテーマにした原点回帰をコンセプトにアジアの6人の監督が映画制作してアジアを中心に世界で公開された。

石井監督オリジナルの脚本で、忖度や制約ゼロの中で作られた。

 


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2、あらすじ

 

高校の同級生だった厚久と奈津美は結婚して娘も生まれて幸せに暮らしていた。

一緒に3人でつるんでいた武田は結婚後も2人と親友でい続けていた。

厚久が体調不良で早退して帰宅すると、妻は他の男と肌を重ねていた。

平穏だった日常は崩れて、愛はイミテーションのように色褪せて壊れていく。

失意の厚久に寄り添い続ける武田、弟の妻を奪った男に憎しみを抱く厚久の兄。

悲劇が雪崩のように虚構を押し流した後に、隠された想いが語られ始める・・・。

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3、この作品に対する思い入れ・観たきっかけ

 

kenさんがツィッターかブログで絶賛していて気になって観ました。

TSUTAYA、ゲオでジャケを見てなんか気になってたのもあります。

ジャケ買いならぬ、ジャケ借りとか全然あります。

インスピレーションとフィーリングに従って生きている44歳っすわぁ。

なんか文句あっがぁぁぁあ!!!!

なぐごはいねぇぇぇがぁぁぁああ!!!!!!

 

何か邦画でしか醸し出せないような湿度と、その奥に隠されたエモーションを感じさせてくれるような映画だったと思います。

観終わったあともずっと。

抉られ続けています。

痛い痛い。

古傷のかさぶたをはがしてるみたいな。


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4、感想(わりとネタバレやで?)

 

大島優子さんって元AKBの主力だった人なんですね?

いや、世俗に疎いもので。。

なんかそんなキラキラを全然感じないようなスレた役でしたし、すごくハマっていたと思います。

旦那に浮気相手とのセックスを目撃されて睨み返したりとか、なかなかのタマですね。

 

でも元々は天真爛漫でちょっとだけ生き方が下手な不器用な女性なのかなと思えました。

厚久が別の女性の婚約を破棄して、奈津美と結婚するキッカケになった事件(?)もはっきりとは語られていませんが、そんな奈津美の不器用さが招いたトラブルだったのかなとも思えました。

そのまま厚久と添い遂げられていたら・・・。

なにかそういう生きるのが下手で、選択することが自分をどんどん不幸へと追いやっていくような人っていると思うんですけど、奈津美はまさにそういう感じの人生を歩んでしまいます。

 

厚久と武田が歌っている主題歌の「夏の花」は、奈津美への想いを曲にしたのでしょうか?

在りし日に咲いていた眩しいくらいのナツの花は悲しくも散ってしまいます。

度々挿入される高校時代の3人の映像がとても切ないです。

 

厚久はなぜ奈津美に裏切られてしまったのか?

彼の心の声が小さすぎて奈津美に届いていなかったからでしょうか?

鬼滅の刃』のカナヲみたいですが、厚久の心の中にはマグマのような激情も渦巻いていたのですが、外の世界に向かってどうやって表現したら良いのかを自分でもわからなかったのでしょう。

 

厚久の祖父、兄との関係は彼の心の中でとても大事な部分を占めていて、彼の心の声を聞き取ってくれる数少ない人たちだったのではないでしょうか。

兄役のパク・ジョンボムの雰囲気が何か好きなんですが、まるで村上春樹海辺のカフカ』のナカタさんのようにイノセントな感じがします。

厚久=カフカが心の内に閉じ込めた、あるいは感じないように目を背けた「悪意」を代わりに発散して、弟の妻と姦淫した悪の男を殺したように思います。

 

彼のサムアップが目に浮かびます。

引きこもりのヤク中でもやはり兄でありますし、厚久のことを案じていたのでしょう。

悪意や怒りを誰かに向かって発散できない弟の代わりに、兄が罪を犯したように僕には感じられます。

 

殺人を犯した兄に面会するために父母と共に刑務所へと赴く厚久。

その帰りに場末とも思える中華料理屋で不味そうな料理を食べて、意味不明な家族写真を愚鈍な男に撮ってもらう。

公園では殺人を犯した兄が収容される刑務所をバックにハイチーズ。

すごくシュールでズレているし、何か寂しいようなシーンでした。

なんかああいうシーンって好きですね(笑)

老いた父母と、女房に三行半を突きつけられた三十路の男。

哀愁が漂いまくります。

 

死んだ男の借金を背負ってデリヘル嬢になり、挙句の果てに異常者の客に殺された奈津美。

もう辛すぎます。

義理の母から拒絶されて娘も取り上げられる厚久。

たまらず武田の運転で娘のすずが住む家へと足を運ぶ厚久でしたが、そのまま通り過ぎてしまいます。

 

このままでいいのか?

一生自分の心の声を伝えずに。

大事な人の前を通り過ぎるのか?

もう2度と会えないのだとしても?

 

車中で想いをぶつけ合う武田と厚久。

鳴り響くクラクション。

何かを察して姿を見せるすず。

とめどなく流れ落ちる2人の涙。

そして・・・。

意を決した厚久は走り出します。

今度こそ心の声を。

自らの想いを大事な人に伝えるために。

 

 

 

5、終わりに

 

自分の気持ちや心の中にとどまっている感情を表現することは、難しいことがあると思います。

誰かの気持ちを慮るあまり、自分の声の出し方を忘れた男。

そんな彼が自分の声を取り戻す物語。

誰かの幸せを願うなら、またその誰かに寄り添う自分も心の声を出して一緒に歌えればいいい。

そんなことを思わせてくれる物語でした。

 

 

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