ヒロの本棚

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【映画】ミッドナイトスワン~身を寄せ合う2羽の孤独な白鳥~

1、作品の概要

 

2020年9月に公開された日本映画。

草彅剛主演でトランスジェンダーを題材に作品。

監督・脚本は内田英二。

原作小説の執筆も手がける。

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2、あらすじ

 

男性に生まれながら性同一性障害で女性として生きている凪沙(草彅剛)は、新宿のゲイバーで働いていた。

郷里の広島からネグレクトされていた姪・一果(服部樹咲)が上京してきて母親の頼みから一時的に同居するようになるが、お互いに心が開けずにギクシャクする日々。

一果はバレエを習うために友人のりんの紹介で違法な撮影バイトをしていたが、客とのトラブルで警察沙汰になってしまう。

迎えに来た凪沙は、パニックになり自傷行為へと走る一果を抱き締める。

傷つきながら生きてきた2人は本当の親子のように少しずつ距離を縮め始めて、凪沙は一果にバレエを続けさせるために、ある決意をするが・・・。


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3、この作品を観たきっかけ、思い入れ

 

TSUTAYAのレンタル全品110円のキャンペーンがやっていて西川美和監督の『すばらしき世界』を観たいと思っていましたが品切れで『ミッドナイトスワン』を借りて観ました。

こちらも素晴らしい映画でしたし、トランスジェンダーの問題とその悲しみを表現した作品でもあったかと思います。

音楽と映像も素晴らしくて、心に残りました。

原作の小説もあるとのことですので、ぜひ読んでみたいですね。

 

 

 

4、感想・書評(たぶんネタバレないよ☆)

 

いやー、まず草彅剛の演技がめっちゃ良かったですね!!

歩き方、喋り方や仕草なんか細かいディテールにもこだわっていてすごくリアルでした。

映画を観終わって、草彅くんのことをもう普通の男性として見られなくなるような・・・。

そんなリアリティのある演技だったと思います。

 

男性に生まれてしまったけれど、心の中では常に自分の性別に対しての違和感がある。

小学生の時に海に行ったけれど、海パンを履いている自分に違和感があって・・・。

なんで、スクール水着を着てないんだろうって思ってた。

それ以来海に行っていない。

と、 凪沙が話す場面がありましたが、幼少の頃から抱いていた自分の性別への違和感と葛藤が窺えます。

 

母親にネグレクトされていて自身も傷を抱えていた姪の一果。

郷里の広島から上京して来た彼女との同居生活が、凪沙の母親の頼みで一時的に始まります。

母親と電話で話す場面も急に低い声で男言葉で話しだしたりしていて、自分が抱えている性別の問題を母親にも話していなかったことが窺えます。

東京は新宿もあるし、凪沙のような境遇の人間が生きていくにはピッタリな街だったのでしょう。

 

傷ついた野生動物のような凪沙と一果。

奇妙な共同生活は始まりますが、お互いに敵意を剥き出しにしていてなかなか打ち解けることができませんでした。

本当は分かり合いたいけど傷つけられるのが怖い。

なんかハリネズミのジレンマみたいですね。

一果は、ほとんどコミュニケーションを取ることができずに気に入らないことがあると、攻撃的な行動に出てしまっていて周囲との溝は深まるばかり。

 

でも、凪沙が酔いつぶれて自分の境遇を呪うように涙を流し感情を吐露したり、一果が違法な撮影バイトの客とのトラブルで警察沙汰になったあとパニック状態から自傷行為に走ったり、お互いが心の中にある葛藤や悲しみを吐き出すことをきっかけにして少しずつ2人の距離が縮まっていったように思えました。

「うちらみたいなんはずっと1人で生きていかなきゃいかんけぇ。強ようならんといかんでぇ」

自傷行為に走る一果を強く抱き締めてそう言い聞かせる凪沙。

境遇は違えど、自分と一果は傷つきながら生きてきた同志のような存在だと凪沙が認めた瞬間だったと思います。

 

それ以降、前半のトゲトゲしかった凪沙が嘘のように穏やかになっていきます。

服装もグラサン+トレンチコート+ブーツだったのが、ふわっとしたカジュアルな服装に変化して、表情もとても柔らかくなっていきます。

この変化を演じた草彅剛の演技には脱帽でした。

表情とか仕草とかもう母親そのもので、母性に目覚めていくのがありありと表現されていました。

バレエの先生に「お母さん頑張りましょう!!」と言われた時の嬉しそうな表情と言ったらなかったですね・・・。

何かとても微笑ましいシーンでした。

 

でも、性別的に男性である凪沙は一果の母親にはなりえない・・・。

どれだけ母親らしい母性と優しさに溢れていても。

どんな女性より女性的であったとしても、女性にはなり得ない。

粗雑で、おおよそ母性とはかけ離れた存在である一果の本当の母親との対比が凪沙の苦悩と葛藤をより引き立ているように思えます。

 

一果の夢であるバレエを応援したい凪沙は自らのアイデンティティーさえも犠牲にして彼女を支えようとします。

その姿は何か自分が女性として成し得たかったことを一果の夢であるバレエに託しているように思えました。

 

ラストで一果が青い海をバックに白い服を来て踊るシーンがとても印象的でした。

青と白のコントラスが鮮やかでとても美しかったです。

葛藤や苦しさも感じさせながら、未来に繋がるようなラストシーン。

心に残るとても良い映画でした。

 

 

 

 

5、終わりに

 

トランスジェンダーの葛藤が描かれていた作品でしたが、凪沙と一果の傷を持った者同士が身を寄せ合って、少しずつ心を開いていく描写がとても繊細で良かったです。

とにかく草彅剛の演技が印象的な作品でした。

 

 

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